《張る気》の反対が《弛む気》である。
気というものは元来「二気を合わせて一元となり、一元が分かれて二気となる」ものであるから、必ずその反対の気を引き合い生じ合い、招き合い随え合うものである。そこでたまたま《張る気》をもって仕事に取り組んでいても、しばらくすると反対の《弛む気》が引き出されてきて、しだいに張る気が衰え、弛む気がふくらんでくる。これはたとえてみれば、潮の進退と同じである。満ち潮はいつまでも満ち潮でいることはできず、やがては引き潮に変わっていく。
それからまた、「母気は子気を生じる」のが自然の成り行きである。張る気を母気とすれば、逸る気は子気である。逸る気は功を急いですぐに駆け出すが、枯れ草の火のように長続きはしない。
「駒の朝勇み」という俗諺がある。大人になっていない若い馬は、非常に逸り勇む傾向がある。ところが朝はすこぶる元気で駆け回っているのだが、夕方には疲れてさっぱり元気がない。同じように、逸る気で事をなす人は、本を読ませると一日に数十巻を流れるように読破し、文字を書かせれば千万字を書く勢いで飛ぶように筆を走らせる。そして旅に出れば山河を一気に踏破してしまう意気込みだ。ところが逸る気の人間の常で、たちまちにして疲れとつまづきで元気がなくなって挫折してしまう。
張る気は悪くないのだが、これが一転して逸る気に変化すると面倒だ。長所が影をひそめて欠点がのさばり出る。本を読めば速く読めるが早吞み込みするし、文字を書けば誤字脱字の連続だ。旅に出れば、すぐにわき道に入りこんだり方向を間違えたりする。そういうことが起こらなくても、何事にも飽きっぽくてすぐに投げ出してしまいがちである。せっかく張る気があっても、これが流れると逸る気に変ってしまうから十分に気をつけたい。
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