2009年7月28日火曜日

幸田露伴「努力論」を読む 第五章-2-3

【自分に追い風を吹かしてくれる情の感激】編述者■渡部昇一
 《張る気》を生じさせる第三の要素は「情の感激」である。
 急病の親のために、ふだんなら恐ろしくて通れない夜道を怖がりもせず医者を呼びにいく孝行な娘の気の張りなどが、これに当たる。
 美しく正しい情の感激は、《張る気》を引き出す大きな力をもっている。コロンブスはイサベラ女王の援助によって、張る気を生じて勇躍新大陸へと旅立った。近松門左衛門の芝居では、美人の恩情が与兵衛の気を張らせ奮い立たせるよい場面がある。実生活では、情の感激から張る気を生み出すことはそれほど多くはないが、歴史や伝記、小説や戯曲の世界では、情の感激から正しい気の緊張が引き出され、最後に大成功で結ぶ傾向がある。
 嫉妬の念、恩愛の情、感謝、憤怒、憎しみ、喜び、・・・・など、いろいろな感情の発動は、ときにややもすれば張る気を生み出したりする。しかし、醜悪な感情は、張る気のような善気ではなく《戻る気》《暴ぶ気》あるいは《逸る気》などのような悪気を呼び起こす場合が多い。悪い感情ではないが、歓喜のような情は《張る気》を生むより《弛む気》を生み出しやすいから気をつけなければならない。

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